






インドネシア、スマトラ島の西約120km沖のインド洋上にシムル島という島があります。日本のガイドブックはもちろんロンリープラネットの分厚いガイドブックにさえ一行の記述もない観光とはほとんど無縁の島です。北スマトラのメダンから双発のプロペラ機で約1時間、サンゴ礁に囲まれた小さな島に着きました。アチェ州に属するこの島は2004年12月のスマトラ沖地震の津波にみまわれました。しかしこの島で犠牲になった人はほんの数人でした。それは多数の犠牲者をだした約100年前の津波の教訓が生かされたからだといいます。「地震のあとに海の水がひいたら、高い所に逃げなさい」という意味の歌や言い伝えがあり、その教えにしたがって山に逃げた多くの島民が難をのがれたのです。回りの島々で何百人という人々が亡くなったことに較べるとほとんど奇跡的にも思えます。
村の女性が歌ってくれた歌の一部はこんな意味でした。
最初に来たのは地震でした
高波がその後を襲い
突然、村が沈んでしまいました
大きな地震が来て、水がすっかり引いてしまったら
早く高い場所を探しなさい・・・・・・
100年前のできごとは自分の経験としてはだれも知りません。悲惨な経験が歌や言い伝えで後世に伝承されていくことがいかに大切なことかが如実に現れた事例といえます。別の島では海の水が引いた時そこで魚を捕っていて津波にのまれた人も多かったと聞きました。
2008年 毛利立夫