

クジラと生きる村
インドネシアバリ島のデンパサールから飛行機と車と船を乗り継いで2日間レンバタ島のラマレラという村に着きました。一見何の変哲も無い漁村ですが、ここでは今や世界でも類を見ない猟が行われています。木造の小さな船と、手銛でマッコウクジラを獲るのです。プレダンというその船は10人前後の漁師が乗り込み主に手漕ぎと帆で動きます。クジラを見つけて近づくとラマファーと呼ばれる船頭で銛射ち役が舳先に作られた台に立ち、クジラにむかってダイビングして銛を打ち込みます。銛にはロープがついていてプレダンとつながっています。もちろん巨大なクジラが一撃の銛でつかまるはずはなく、銛は何度も打ち込まれます。通常何台かのプレダンの協力で仕留めます。クジラの他にも同じ方法でマンタ、ジンベイザメなども獲っています。
こんな昔ながらの猟がもう400年も続いて行われているといいます。クジラはいつもラマレラの海域にいるわけでは無いし、人力に頼ったこの方法ではクジラに逃げられる事も多く獲れる頭数は決して多くはありません。しかし10メートルをこえる大きなクジラは一度獲れれば肉の分量は膨大で村人たちが食べる分ばかりでなく、ラマレラであまりとれないトウモロコシなど穀物や野菜をももたらしてくれるのです。クジラの肉との物々交換でそうしたものを得るのも昔からのならわしです。
3週間あまりの滞在でしたが、私は以前エスキモーの猟師を取材した時と同じようにこの村が好きになり彼らの生活に憧れをおぼえました。クジラを探して帆走するプレダンに同乗した時の心地良さ、クジラに銛を打つ彼らを遠くのボートから撮影した時の興奮、そしてなにより彼らの他にあまり左右されない確固とした生活文化に感動しました。獲物であるクジラは捨てる所なく利用し、クジラに対して感謝の気持ちをわすれません。それはエスキモーの猟師と通じるところがありました。
2007年 毛利立夫